<STORY DEMO>

雪の降らぬ冬が今年もまたやってきた。
南というほどでもないが北国とも言えない、
そんなどうとも言えない所にある我が町。
「雪が降るわけでもないのに今日も寒いな」
降れば町中、物珍しさでちょっとしたお祭になるというのに。
理不尽だが軽い怒りも覚える。

しかしまだ暖かい布団の中。出たくない。寒い。
そういえば何か怖い夢でも見ていたような。思い出せやしないけど。
そんないつもの日常。

母入院、父単身赴任中。血の繋がらない妹と二人暮し。
そんな少々普通ではないらしい我が家。悪友には「漫画みたいだな」と言われるが、
こちらとしては普通の現実。
妹には気を使うし最近じゃ会話すら稀、
両親も家にいないから家事は基本的に二人で分担。
漫画どころか所帯じみてきて仕方が無い、そんないつもの日常。

家、通学路、学校、時々寄り道。
繰り返り繰り返しの反復運動。何か無いか何か無いかと堂堂巡り。
今の学校を卒業まであと1年、
その先老いて死ぬまでアト約70年――そんな事を考えつつ、
寒いから早く帰ってコタツにでも潜りこむとしようか。

『どうしていつも無くしてから大事なものだったと気付くんだろう』
何処かで聞いたような台詞を、夢の中の俺は呟いていた。

「変な空だな」
そう呟いたのも世界を見渡せばきっと幾万人はいる、どうって事のない空。
悪夢を見始めて、ちょうど三日目の夕方の出来事。

その晩から、終わりの始まり。

『終わりの時なんて、それこそ何の前触れもなく一瞬だろう』
これも誰かが言ってた予想の一つ。

ある日ある時ある瞬間突然、大地は揺れ、弾は命を奪い、毒は酸素を殺した。
ずっと永遠に死ぬまでそこに在るであろうと思っていた世界は滅び、
死した人々には墓もなく、生き残った人々には唐突なる余生。

誰も「何故?」の問に答えられない。
詳細なんて俺のような就寝中だった一般人にはきっと分からない。

ただ俺に分かるのは、
眼前に広がる惨状と血と肉と硝煙の匂い。失ったモノの大きさ。

そして、夢を見ていたという事だけだ。
大事な、かけがえの無い日々の夢を――

 

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